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日記、自動車関係、カーシェアリングを中心に思ったことをつらつらと書きます。

日産のモデルベースシステムズエンジニアリングについて

IPAで以下の論文が公開されており、なかなか興味深い内容でしたので紹介します。

自動車のパワーバックドアシステム開発のためのモデルベースシステムズエンジニアリングの適用(PDF注意)

なぜモデルベース開発が必要か?

・自動車の電子化が急速に進んでいる=ソフトウェア開発の比重が非常に大きくなってきている。

・様々なユーザニーズの変化に応じて新たな機能を追加することが求められている。

・従来の開発手法でこの状況に対応しようとすると不具合、手戻りが発生する可能性が高い。

日産の開発手法の課題

日産の従来の開発手法では以下のような課題があった。

・“部品ありき”の設計スタイルで、システム全体で最適化ができていなかった。

・成果物をどのような形でどのように残していくかの判断やその質が個人のスキルに依存していた。 このほか、以下の課題があった(日産だけに限らない課題)。

・関係部署をまたぐ技術者間のコミュニケーションが重要となるが、必ずしも、こうした観点でのアプローチが系統的に行われていない。

・サブシステムやコンポーネントを担当する技術者にとっては、追加開発のもとになるシステム全体を見渡すことができないために、ほかのサブシステムやコンポーネントとどのような関係性を持つのかが分からない。

本事例のアウトプット

・MBSE及びそれをサポートするSysMLを導入することによる効果と、その際の課題。

・システムモデルを記述するためにSysMLを初めて企業へ導入する際の、技術者の気づきやそこから明らかになった点。

システムズエンジニアリングでモデルを用いることのメリット

・仕様書など文書だけではすぐに理解できないことが、図的に表現することで理解が容易になる。

・複数の分野にまたがり協働してシステムを開発するには、共通言語が必要であり、それをサポートするには図的な言語が有効である。

・モデルを再利用することにより開発の効率化が期待できる。

・モデルを用いて抽象度を上げることにより革新に導く。

・絵(ユースケース図)を描きながら、プロトタイピング的な議論を行うことでユーザ目線で要求を導出することができる。

・振る舞いが同じ2つのコンポーネントの統合の可能性を机上(プロトタイプを作る前)で見出すことができる。

得られた気づきと明確になった点

・要求のトレーサビリティの確保が容易。

・シーケンス図を用いた検討により、新たに追加するべき機能を明確にできた。

・類似機能を有する部品の統合可能性を示唆することができた。

・部品ありきの設計スタイル、組織の壁にとらわれない最適化の検討ができた。

・他部署に影響が少ないシステムを開発する思考ではなく、全体を俯瞰する思考ができた。

導入における課題

・部品レベルからシステムレベルでエンジニアリング活動を行う組織体制の構築。

システムエンジニアリングを導入するコスト(ソフトウェア、教育)負担。

まとめ

自動車の電子化に伴い、ソフトウェア開発の工数が大幅に増加。部署をまたぐ開発はコミュニケーション不足や仕様書の読み違いなどに起因する不具合リスクが高いため、一つの部署内で完結するシステムを開発しようとした。そうすると、全体を俯瞰できるエンジニアが少なくなり、他のシステムとの連携による機能性向上がやりにくくなってきた。しかし、複数システムの連携は車の商品力向上には不可欠(市場からの要求)であり、従来のやり方でこの要求に対応しようとしたが、不具合や手戻り発生により開発効率が悪い状況であった。そこで、システムズエンジニアリングを用い、部署の壁にとらわれない設計をすることで、最適なシステムを構築することができた。